ディアブロ IIIのオークションハウスとゲームデザイン

Wyatt Cheng

開発者のWyatt Cheng氏が自身のTwitterで、ディアブロ IIIの『オークションハウス』について、開発側の意図とゲームデザインの関係を述べました。

その内容を翻訳して掲載します。


ディアブロ III についてお話しておきましょう。この話題は人気がないかもしれませんが、皆さんの意識がDiablo II リザレクテッドに向いている今こそ、この話をするのに適切なタイミングだと思います。最後には、私が学んだデザインの教訓を記します。

よく「 ディアブロ III はオークションハウスを中心に、バランス調整がなされた」という声を耳にしますが、これは誤りです。

多くのプレイヤーが「ディアブロ IIIのバランスにより、オークションハウスを使わざるを得ない状況に陥る」経験をしたことは事実ですが、それは意図してゲームをデザインしたわけではありません。

「 ディアブロ III 」のバランス(インフェルノなど)は、オークションハウスへの誘導を目的としたものではなく、ファーミング(アイテムを探す作業)の必要性から生まれたバランスでした。

参考にしたものは「ディアブロ II」です。通常ディアブロ IIでは、ノーマル、ナイトメア、ヘルの難易度を、ファーミング無しに一気にプレイする事ができません。また、内部テストの段階では、オークションハウスは存在していませんでした。

ディアブロ IIでは、難易度を上げたり後半のActに進むにつれ、プレイヤーの進捗は遅くなります。それは、ある程度のファーミングが必要になるためです。

そして、同じゾーンを何度もプレイしたり、ボスを周回したりすることで、より良い装備を手に入れられ、難易度”ヘル”を楽しめるようになります。

リリース前のディアブロ IIIのテストでは、自身で装備を集めて遊べるのゲーム体験が用意されていました。内部テストでは、オークションハウスもなく、何千ものプレイヤーが交流することもありませんでした。

私はディアブロ IIIリリース前に、ヘルとインフェルノでボスを周回する開発段階の ディアブロ III を延々とプレイしていました。

ここで得た最初の重要な教訓は、今日になってみれば明らかです。もっと公開テストを行うべきだった、ということです。スケルトン・キングまでプレイできる公開テストはありましたが、それだけでは不十分でした。

公開テストには、より多くのコンテンツ(90%以上のコンテンツ)を含め、また、数ヶ月に渡る期間も必要になります。開発スケジュールには、「味見してもらう」のための時間も、設けなくてはなりません。

この規模のゲームの開発スケジュールを組む場合には、「学んだことから、デザインを大きく変更する」ための余剰時間が必要です。この時間は、数日~数週間ではなく、2~3ヶ月単位です。

ゲーム開発の経験がない方には、これがどれだけ難しいかを理解できないかもしれませんが、ゲーム開発のライフサイクルを経験したことがある人は、具体的なタスクのないスケジュールで6週間のギャップを作ることが、いかに困難か想像できるでしょう。

2つ目の重要な教訓は、あなたのゲームや機能や調整は、その設計意図によってではなく、プレイヤーの持つレンズで認識されるということです。

「ディアブロ IIIはオークションハウス中心に調整されていない」と言うこともできますが、オークションハウスを用意したら、プレイヤーは利用します(当然のことです!)。プレイヤーは通常、最も楽にゲームが進められる選択肢を選びます。

ディアブロ IIIでは、それがオークションハウスでした。

当時の私達は、「ゲームを難しめに調整すれば、自分で装備を見つけようと遊ぶ人たちはゲームにやりがいを感じるし、オークションハウスを使いたい人はそれはそれでいいだろう」と、甘く考えていました。

とはいえ「ディアブロ IIIはオークションハウス中心に調整された」とか「ディアブロ IIIはオークションハウスを強要していた」などと聞くと、未だにうんざりします。

なぜそんな発言をするのか理解はしていますが、「ディアブロ IIIの調整が、プレイヤーをオークションハウスに向かわせた」とか、「オークションハウスへのアクセスが容易で、通常ゲームプレイを失わせた」と表現するほうが適切です。